埋没する費用ってなんだ?
2015年03月16日
損得学に関するコラムも6回めをむかえました。だんだん、例題が複雑になってきますが、大丈夫でしょうか?
では、今回は設備投資に関する例題を出題します。いつものように、損得計算の視点から考えてみてください。
【例題1】
凸凹テックでは、ベトナムへの工場進出を計画しており、2か所が候補地となっています。
《候補A》主要取引先の大日本製造と同じA市にある工業団地内への進出で、総工費20億円の予算です。この金額は、大日本からの情報もあり、確実性が高い見積もりと考えています。
《候補B》B市にある場所で、土地造成が必要ですがA市と同程度の予算を見込んでいました。ところがB市への進出にはエネルギーの確保やアクセス道路整備など懸案事項が多く、多くの不確定要素がありました。そこで、現地の建設会社に調査と道路整備を依頼しました。結局、3億円かけて事前調査を実施し、総工費が18億円程度かかることが判明しました。
担当のツルミ部長は、A市進出案では20億円、B市進出案では、18億円+3億円の21億円かかると判断し、役員会でA市進出案を提案するつもりです。
さて、あなたはツルミ部長の意思決定をどのように考えますか。
【考え方】
以下の基本原則に沿って例題1を考えてみましょう。
〔損得判断の基本原則〕
第1原則 ⇨ 比較の対象を明確にする
第2原則 ⇨ 収益の違い − 費用の違い = 利益の違い
比較の対象の間で、お金の流れに着目し、収益の違いと費用の違いをそれぞれ総額でとらえる。
このケースでの比較の対象は、A市を選ぶかB市を選ぶかです。
意思決定の時点を確認する上で模式図を書くと以下のとおりになります。
これを見ていただくと意思決定の判断材料となる行為が実施された時間に前後があることがはっきりします。3億円の事前調査を行ったことでB市の総工費が18億円かかることが分かりました。役員会は事前調査の後なので、A、Bどちらの案を選んでも3億円の事前調査費は支払済みの費用になります。
これは、比較に対象においては共通の費用ですから損得計算から除いて考えます。
ということで、第2原則を適用すると費用の違いがわかります。
<費用の違い>
・A市を選ぶ場合 20億円、B市を選ぶ場合 18億円 相違分2億円
今回の意思決定は、条件がないので収益の違いは考慮しません。
この損得計算だと、A市よりB市の進出案の方が経済的だと判断されます。
このアプローチからツルミ部長は、A市ではなくB市進出案を役員会で提案すべきであることを理解していただけましたでしょうか。
この例題での事前調査にかけた費用は、過去に支払ってしまい取り返しがつかない共通費用です。これを 『埋没費用』と呼びます。
埋没費用は至る所にあります。例えば、支払済みで返済されない頭金や過去の設備投資などが該当します。
さて、もう一つの例題で埋没費用について考えてみましょう。