事業を未来に向けて引き継いでいくために

2014年10月23日

前回分から読む
 
社長の仕事シリーズ(4)事業承継②
 
前回は、事業承継には社会的責任が伴うこと、近年の後継者難(後継者決定と育成の困難)で事業承継が進んでいないこと、そしてその後継者難に対処するためには「事業承継の前工程」が重要であることをお話ししました。今回はその続きとなります。
 

事業を見える化し共有する

事業承継の前工程というと、後継者候補には、まず部長職を歴任させ、○○年頃に常務、○○年に専務、そして○○年に社長に就任させるといったスケジュール的なことが思い浮かびがちです。もちろんそれも後継者候補が経験を積む、社内での人間関係をつくるというような意味では大切なことです。しかしそれだけで後継者候補が事業を継ぐ心構えをし、経営を担えるまでに成長するかというと、まだ十分とは言えません。実はそれと同時にやるべきことがあるのです。それが「事業の見える化と共有」です。
 
では「事業の見える化と共有」とは何でしょう。それは次のような問いに明確な答えを用意して、事業の本質的な部分を見える化し、後継者候補と共有することをいいます。
 

1. 自社の事業の意義、魅力、価値は何か。
2. 全社で共有する普遍的な価値観や伝統(創業以来大切にし、守っていること、会社のDNA)は何か。
3. 自社の事業の強み(事業を成り立たせている力)は何か。
4. 解決しなければならない課題は何か
5. それらを踏まえた会社の将来像は何か

 
後継者候補が事業を継ぐ決意をし、新社長として成長していこうと努力をしなければ、事業承継は成功とは言えません。そしてそのためには、引き継ぐべき事業を深く理解する必要があります。
 
上記の問いにしっかり答えを用意し共有することで、後継者候補は会社への理解を深め、事業承継の決意を固め、経営者として成長することに大きな動機付けを得ることになるのです。
 
例として、私の地元のある商店のお話をしましょう。
そのお店は決して立地条件が良いわけでもなく、人通りもまばらな通りに面しているのですが、しっかりとお客様をつかみ業績も好調です。そのお店が最近息子さんに代替わりをしたのです。サラリーマンをやっていたのですが、自分から後を継ぎたいと戻ってきたのです。近年の後継者難で商店の廃業が目立つなか明るい話だったので、さっそくその息子さんに話を聞いてみました。
「なぜ後を継ぐ気になったのか?」という質問に「商売に伸び代があるから」という答えが返ってきました。さらに話を聞くと、彼はよく両親の商売のことについて理解しているのです。お店が地元の産物を大切にしていること、それらを使って魅力的な商品を開発してきたこと、地道な努力で多くの固定客を掴んでいること、積極的にネット販売など新しいものにも挑戦し業績を伸ばしていること、そして将来のビジョン等々、とても驚きました。
私は先代の店主も知っていますが、常日頃から商売のこと、地元の商店のあるべき姿等について明快でしっかりとした考えを持った方です。おそらくサラリーマンをしていた息子さんにも、ちゃんと「商売の見える化と共有」ができていたのだと思います。
 
まとめますと、事業承継の今日的な課題である後継者難に対処するには、次のような「事業の見える化と共有」の過程が不可欠で、それができれば事業承継は半分以上終わったといっても過言ではありません。
 

1. 社長自身が会社の本質的な部分(上記5つの問い)をしっかり整理し再確認すること。
2. それらを言葉で明確に表現し後継者候補に伝え、かつ同じ思いを共有すること。
3. 後継者候補が自分から事業を継いでみたいと思えること。

エバーグッド・コンサルティング 代表 中小企業診断士/認定経営革新等支援機関  首藤愼一 執筆者紹介

エバーグッド・コンサルティング 代表 中小企業診断士/認定経営革新等支援機関  首藤愼一

経営改善計画策定支援、経営革新計画策定支援、各種補助金(ものづくり、創業etc)の申請支援など、製造業から小売業まで業種を問わず「中小企業の元気に貢献する」を理念に活動しています。

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