社員の発明で法外な報奨金を要求されないために

2014年12月18日

企業等の従業員が職務上行った発明を「職務発明」と呼びます。職務発明は特許法でいろいろ取り決められていますが、これを見直すための法改正が政府により進められています。

 

そもそも職務発明の制度とはどのようなものなのでしょうか。
現在の日本の特許制度では、特許を受ける権利は「発明者である社員個人」に生じますが、会社にも「通常実施権」が認められています。
「通常実施権」とは、特許権は有さないものの、その発明に関して自由に実施できる権利で、会社は、発明に関する製品を自由に製造・販売できることを言います。

 

「通常実施権」を行使するには、会社はまず「就業規則」で、「職務発明については、会社に譲渡しなければならない」という取り決めを事前に行います。これを「予約承継」と言います。
これで、会社は、職務発明した社員から特許を受ける権利を譲り渡してもらうことができるようになります。ただし、会社は特許を受ける権利を取得する代わりに「相当の対価」を発明者である社員に支払います。

 

この「相当の対価」というのがいくらくらいを指すのかが問題になります。
ノーベル賞受賞で話題の青色発光ダイオードは、一審で企業側に200億円の判決を命じましたが、和解し、約8億円で決着しました。
最初から会社だけに権利が発生すればわかりやすいのですが、発明という性格上どうしても個人に権利を発生せざるをえないのでしょうね。

 

さて、予約継承ですが、これはキチンと「就業規則」に記載しないと、特許はあくまで「個人」に認められるため、その個人がもし他人に譲渡すれば、会社以外の第三者も特許を使用することができるようになってしまいます。
その特許が、例えば「会社のお金を使って、会社で発明した特許」でもです。しかし、それでは会社としては納得できないことと思います。

 

では、就業規則にはどのように記載すればいいのでしょう?
例えば、以下のように記載します。

 

1.職務発明は原則として会社がその権利を承継するものとする。ただし、会社がその権利を継承しないと判断した場合は、この限りではない。
2.発明をした社員は、会社が特許をうける権利を承継しようとする場合は、その権利を放棄しなければならない。
3.前項の場合、会社は発明者に対して報奨金を支給する。

 

特許制度における発明者と会社の関係は、なかなか難しい問題です。
特許は会社がすべて持つもの、にはならないためです。
あくまで個人に対して特許がおりるということが、就業規則記載の必要性を生じさせています。

 

今年、政府は、最初から特許を受ける権利を会社が持つように法改正しようという方針を打ち出しました。ただ、社員の発明への意欲をそぐのではないかなどの反発の声も上がっており、なかなか簡単にはいきそうもありません。
まずはキチッと就業規則に記載しておく必要がありそうです。

 

皆さんの会社では、就業規則に発明に関しての取り決めはありますか?

大阪合同社労士事務所 代表 特定社会保険労務士 森 啓治郎 執筆者紹介

大阪合同社労士事務所 代表 特定社会保険労務士 森 啓治郎

大阪府社会保険労務士会所属。豊かな労務環境の実現を支援することを経営理念とし、女性活躍推進のための就業規則作成、外国人採用代行、高齢者の処遇・賃金制度など、幅広く手がける。セミナー実績も多数。
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