理由があるから選ばれる 〜ウリが必要なワケ〜

2015年06月04日

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〜ビジネスに役立つ行動経済学⑤〜
 
行動経済学についてはこれまでに4回ほどお話をしてきましたが、念のため復習しましょう。
 
まず、最初に行動経済学を皆さんに紹介した際に提示した定義です。
「行動経済学とは、私たちの経済活動(モノやサービスの売買など)で行う意思決定(判断や選択)と、それに基づく行動を人間の感情の面から読み解く学問」
 
つまり、人の経済活動はその時の感情や心理に大きく影響を受けるものであり、その面からの特徴を知っていこうという学問でした。
これまでそういった特徴として「コンコルドの誤謬」「フレーミング効果」「アンカリング効果」について紹介してきました。
 
そして今回もまた、人の行う経済活動における感情・心理面の特徴に関してのお話です。
 

人は見つけやすい理由に惹かれる

人は何らかの判断や選択をする場合、その理由を必要とします。ただし、自分にとって分かりやすく、受入れやすく、納得のいくものであれば、その理由は必ずしも合理的で矛盾のないものである必要はないのです。
そしてそれは多分に感情や心理に影響されます。
 
ではその感情や心理とはどんなものでしょう。
 
シェイファーという研究者が行った実験を紹介します。
まず、シェイファーは二つの被験者グループに対して次のような事例を提示しました。
 
➢ あなたは裁判所の判事で離婚の問題を扱っています。
 
➢ 子供の親権をどちらの親に与えるか判断しなければなりません。
 
➢ 親Aは「平均的な所得を得ており、健康状態も普通、仕事と家庭で過ごす時間も平均的長さ、子供との関係も妥当なもの、社会生活も平均的で安定しています。」
 
➢ 親Bは「平均以上の高給を得ていてとても裕福、子供との関係は非常に密接で良好、活発な社会生活を送っていますが、健康状態にやや問題をかかえており、出張などで家庭を空けることが頻繁にあります。」
 
そして、1つの被験者グループには「あなたは判事として、どちらの親が親権を与えるにふさわしいと判断しますか」と質問し、もう一方の被験者グループには「あなたは判事として、どちらの親が親権を与えるにふさわしくないと判断しますか」という質問を投げかけたのです。
 
その結果、最初のグループの64%が親Bをふさわしい親として選択し、もう一方のグループはその55%が親Bをふさわしくない親であると選択したというのです。二つの質問の趣旨は全く同じであるにも関わらず、その結果は矛盾するものとなりました。
 
シェイファーはこの矛盾は、判断をするための理由がはっきり見つけやすい親を被験者が選択したために起きたものだとしています。つまり親Bのほうが「ふさわしい理由」も「ふさわしくない理由」も共に分かりやすく見つけやすいからだというのです。
 

お客様に選ばれるために

先に紹介した実験例は自社の製品や商品、そしてサービスをいかにお客様に選んでもらうかということのヒントになります。
 
例えば製品の持つ特性は様々ありますね。品質、機能、性能、形・デザイン、アフターサービス、納期、イメージ等々です。
では、自社の製品をお客様に選んでもらおうと、これらすべての特性について漏れなく説明した広告と、ここが凄いという、いわゆる「ウリ」となる特性を強調した広告と、どちらがより多くのお客様に刺さるでしょうか? それは後者ということになります。
 
製品開発においても同じことが言えます。すべての特性が平均点以上の製品を開発するよりも、お客様の求める「買うための理由」にしっかり応える特性の製品を開発するほうが、たとえ平均すれば前者よりも劣った製品だとしても、選ばれる可能性は格段に高くなると言えます。
お客様はあなたの製品や商品、サービスを買いたがっています。そしてその理由を探しているのです。その欲求に応えない手はないと思いませんか?
 
さていかがだったでしょうか? 単純な話ですが意外と見落としている点だと思いませんか。
特に中小企業の場合、自社の「ウリ」、自社製品の「ウリ」を上手にアピールできていないケースが目立ちます。お客様はその「ウリ」を求めているのです。
では、今回はこの辺にいたします。

エバーグッド・コンサルティング 代表 中小企業診断士/認定経営革新等支援機関  首藤愼一 執筆者紹介

エバーグッド・コンサルティング 代表 中小企業診断士/認定経営革新等支援機関  首藤愼一

経営改善計画策定支援、経営革新計画策定支援、各種補助金(ものづくり、創業etc)の申請支援など、製造業から小売業まで業種を問わず「中小企業の元気に貢献する」を理念に活動しています。

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