損得学のススメ

2014年09月18日

これを今回のケースに当てはめてみましょう。
①第1の原則で比較対象を明確化します。そこで、比較の対象になりそうな行動をピックアップしてみます。
1)「閉店セールでコピー用紙を調達する場合」と「調達しない場合」
2)「一束250円で40束を分ける場合」と「分けることを断る場合」
3)「一束300円で文具店から買い直す場合」と「買い直さない場合」
この中でツルミ部長とハラシマ課長の会話の論点はというと、2)一束250円で40束を分けるかどうかの損得で議論していることがわかります。

 

②次に「一束250円で40束を分ける場合」と「断る場合」で、第2の原則に当てはめ収益と費用の違いを総額でとらえます。
「分ける場合」の収益10,000円、費用12,000円(後日買い直すから)
「断る場合」の収益、費用はともにゼロ。

 

もうお分かりのとおり、正解は、ハラシマ課長になります。10,000円の収益があっても12,000円の費用がかかり、結局2,000円損をしてしまう意思決定になります。

 

企業では、日々ガバナンス(※1)やアカウンタビリティ(※2)が求められており、数値を用いて客観的に説明する上で、財務会計は重要なツールとなります。ただ、財務会計を用いた会計思考は、「過去の実績報告」、「利益、コストの配分計算」には威力を発揮しますが、「将来の意思決定、不確実性の分析」、「利益の拡大、採用案の比較」に関しては、「過去」に囚われて意思決定の足かせになってしまうことが多々あります。この呪縛を解くのが損得学の基本にある「損得思考」なのです。

 

損得学は、MBAなどで「経済性分析」の科目で教えられているもので、新製品開発や新店舗開設などの投資に必要な意思決定の原理原則を学ぶものです。なお、元々この科目は、金勘定にウトイといわれる技術屋さんに「これくらいの損得常識は身につけてください」というネライで生まれたものです。

このコラムでは、経営で直面する利益を最大にする意思決定について考えてみます。例題は、日常のごくありふれた出来事から、会計志向と損得志向、優劣分岐点、埋没費用と機会費用、排反案と独立案をテーマに出題し、意思決定の手助けとなる考え方をわかりやすく説明していきます。

「難しそう」とか「そんなの役に立つの?」といったご意見も多々あるかと存じますが、次回以降も気楽にお付き合いいただきたいと思います。

 

(※1)ガバナンス:企業の意思決定、合意形成のシステム。

(※2)アカウンタビリティ:組織の行動やその結果を対外的に説明する責任のこと。

 中小企業診断士 アンドウ・ユタカ 執筆者紹介

 中小企業診断士 アンドウ・ユタカ

資金調達や財務分析に長年取り組んできた経験を生かし、「経営で生じた会計・ファイナンスの疑問点をシンプルにわかりやすく解説すること」をモットーに、企業内診断士として活動しています。

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