交渉を有利に運ぶアンカリング効果って何?

2015年05月25日

こういった場合に初めから落としどころを提示してしまうのは、アンカリングの観点から望ましくありません。この場合、あなたは可能な限り高い値段を提示すべきです。
 
例えば15,000円をアンカーとして提示し、15,000円以下での妥結は全部“値引き”であると相手に感じさせ、こちらの最低希望価格を上回る価格に落ちつかせる、といった具合です。
もちろん、あまりにも非常識に高い価格を提示すると逆効果になりますから、そこは注意が必要です。
 

競争見積もりの落とし穴

今度は逆のケースを考えましょう。
 
あなたの会社は新しい設備機器の導入を考えています。
この場合に避けなければいけないのは、販売会社一社だけから見積もりを取ることですね。
もうお分かりの通り、相手が最初に出してくる見積価格はアンカーである可能性が高く、仮になにがしかの値引きを得られたとしても、通常より高い買い物をしてしまうリスクが大きいからです。
 
では、どうすればよいでしょう。そう、数社から競争見積り(相見積り)を取ることです。
こうすることで法外に高い買い物をするリスクは大分低減することができます。
 
しかし、ここでも注意が必要です。なぜなら一番高い見積価格をアンカーにしてしまいがちだからです。一番高い見積をアンカーにすると、一番安い見積もりに対して“お買い得感”を持ってしまうことになります。
一番安い見積であっても、それが適正価格とは言い切れません。まだまだ高い可能性は残っているのです。これが競争見積もりの落とし穴です。
 
どうせアンカーとするならば、一番安い見積をアンカーにしましょう。そしてそこから更に値引きを取る努力をするのです。
また、様々なチャネルを使って適正価格を知る努力も並行して行いましょう。アンカリングの影響を薄める有効な手段は、客観的な情報を出来るだけ多く集めることです。
 

会議でもアンカリング効果

アンカリングは会議の場でも姿を表します。
 
例えば、合意形成を目的に複数の部門が集まり会議を行う場合など、意見が百出ようが、いくら時間をかけても結論に至らないことがよくあります。
あるいはその逆で、とても発言力の大きな部門の主張が有無も言わさず通ってしまい、ろくに議論もなく決まってしまうなんていうこともよくあります。
 
こうなってしまう原因はいくつかありますが、まず前者の場合は「アンカーの不在」です。
アンカーは、いわば物事の判断基準ともなるものですから、適切に提示されれば会議の生産性を上げることに役立ちます。
そういう意味でいえば、後者は「不適切なアンカーの提示」が原因といえます。
 
こういった事態を防止するには、適切なアンカーを提示できる優れた会議ファシリテーター(議事進行を務める人)の存在が不可欠です。会議をスムーズに進行させるファシリテーションについては、また別に機会を設けてお話ししたいと思いますが、会議においてもアンカリング効果が大きくかかわっていることを知ってください。
 
さて、今回は行動経済学のアンカリング効果についてお話ししました。
行動経済学には、他にもビジネスに関係する面白い理論がまだまだありますが、今回はここまでといたします。

エバーグッド・コンサルティング 代表 中小企業診断士/認定経営革新等支援機関  首藤愼一 執筆者紹介

エバーグッド・コンサルティング 代表 中小企業診断士/認定経営革新等支援機関  首藤愼一

経営改善計画策定支援、経営革新計画策定支援、各種補助金(ものづくり、創業etc)の申請支援など、製造業から小売業まで業種を問わず「中小企業の元気に貢献する」を理念に活動しています。

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