起業をするなら個人にする? 法人にする? パート2
2015年10月15日
前回分から読む
前回に続いて、「起業するなら個人にする? 法人にする?」をテーマに、どちらにするか判断をする際の参考事項を挙げてみましょう。
Q:経費は法人の方が範囲が広い?
はい、そう言えると思います。
個人事業の「必要経費」と認められる範囲は所得税法37条①で規定されており、法人の「損金」と認められるのは法人税法22条③で規定されています(ご興味がある方は最後に条文を挙げておきましたのでご参照ください)。
法人の場合は、一般的には事業活動の全てが収益活動のためと言えますので、事業に係る経費=損金となります。
個人の場合は、一般的には ①事業活動 ②生活活動 ③事業と生活の両方に係る活動 の3種類の費用が発生し、このうち必要経費となるのは①、③のうち一部(③のうち主たる部分が業務の遂行上必要で、かつ、その部分を明らかにできる場合。あるいは、青色申告で取引記録に基づいて業務の遂行上直接必要であったことが明らかにできる部分のみ)となります。
ですので、法人の場合は「それ経費です」と言って認められるところを、個人の場合は「それ経費です」いうと、「そのうち個人的な家事費はないの?」と指摘されるケースがあるということです。
また、生計を一にしている親族(配偶者や同居の親や子など)に対する給与も、個人事業の場合は一定の額まで、あるいは一定の要件を満たさないと必要経費にできませんが、法人の場合は、給与は給与として損金へ算入できます(役員給与は一定の要件あり)。
さらに、法人の場合は、事業主本人の給与や退職金も損金とすることが大きな違いとなります。
Q:相続対策(相続税対策)は法人の方がしやすい?
うーん、一概には言えませんが・・・個人事業でも法人でもあらかじめシミュレーションをし、事前対策をとっておかれるといいでしょう。
個人事業の相続というと、個人財産+事業財産+事業そのものの承継となりますし、一方で法人事業の承継は法律的にはその法人の支配権(株式)をだれが引き継ぐのか? と言うことになります。
いずれのケースも事前に承継させたい(承継したい)方が決まっているならば早めに手をうっておくことで、もめ事や資金不足などの問題を回避することができます。
一方で、相続税対策のための法人設立は多くの実例があります。株式評価の特例を活用し将来の相続税を節税することも可能となります。
Q:事業を辞めやすいのは?
一般的には個人事業でしょう。
ご本人が「やめよう」と決め、得意先取引先への挨拶を始め事業を整理し、税務署へは「廃業届(開業届と同じ書式)」「(消費税)事業廃止届出書」などを提出し、事業を辞めることとなります。
一方、「法人を辞めよう」と思うと、「解散」「清算」の登記や公告や税務申告手続きが必要となり、さらに法人口座、法人名義の資産負債を個人名義へ引き継ぐなど、もろもろの手続きが必要となる場合が多いでしょう。
総じて個人事業の方が簡単に始められ、簡単に終われると言えます。
以上、「個人事業」と「法人」の違いについて挙げてみましたがいかがでしょうか?
ちょっとでも参考になれば幸いです。
(参考条文)***********************
所得税法第三十七条第一項
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
法人税法第二十二条第三項
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの