錦織はなぜ勝てないのか?

2016年04月14日

日本人からプロテニスプレーヤーが生まれにくい理由

2016年春、ATPワールドツアー・マスターズ1000というグランドスラムにつぐ大きな大会で、錦織圭は決勝まで行き、ジョコビッチに完敗した。
からだの大きさが違うとか、技術の問題とか、いろいろ理由はあるだろうが、大きな視点で考えれば日本のテニス事情が影響しているように思う。
 
バブル期にたくさんあった日本のテニスコートはかなり減ってしまった。テニスを楽しむという感じではなく、ラケットを持っているのが格好いいという時代でもあったのだろうから、結局、日本に広く普及するスポーツにはならなかった。
 
一般的なテニスコートを作るには175坪必要になる。ちなみにサッカー場は約2160坪、野球場は3939坪くらいである。
テニスコートの広さがあれば、都内であれば駐車場にしたほうが収益性は高そうである。
さらに、公営のテニスコートなどは予約しないといけないし、普段は使われないで鍵がかかっていて、時間があるからちょっとテニスをというわけにはいかない。テニスをするにはかなり前からテニスコートの予約という難題を解決しないとできないのだ。
 
また、日本のスポーツはとにかくいまだに野球がメインである。高校野球からプロ野球という大きな市場があり、プロとしてやっていきやすい。子供のとき運動神経が優れている者はまず野球かサッカーへ行くから、テニスはどうしても体格の恵まれた子供が行かなくなってしまう。
 
さらに、テニスは毎日試合ができないし、テレビ中継をするにしても試合時間が決まっていないので、テレビ向きではない。観客動員数を考えても、一度に何万人という人が見ることが不可能だから、営業上に非常に成り立ちにくい。
 
こうやって考えてくると、狭い日本でテニスをすることはスペースの問題でかなり不利であるし、プロスポーツとして日本ではまず成り立たない。だから普通はプロのテニスプレーヤーになろうとは思わないだろう。
 

リスクを好まない日本人

しかし、本当の理由は違うのだ。
脳の中にはセロトニンという神経伝達物質がある。神経細胞どうしの連絡に使う物質だ。これが減ってしまうと、うつ病になり、これが安定して出ていれば、前向きに物事を考えられる。
 
元々日本人はこのセロトニン量が少ない。つまりリスクを好まないのだ。
人類はアフリカから世界に広まっていったが、日本まで来た祖先たちのうち、セロトニンの量の多い人はアラスカ経由でアメリカ大陸や南太平洋へ向かった。
つまり日本人はセロトニン量が少ないので、冒険を好まず島に住み着いたのだ。
 
となってくるとスポーツをやらせても、リスクのあることをやらない。
勝負のパッシングショットをなかなか打たない。どうしても守りの試合をしてしまうのだ。
ジョコビッチ相手に守っていては決して勝てないことは想像がつく。
サッカーもゴール近くでパスをして、自らドリブルで切り込んでシュートが打てない。
 
技術をいくら磨いても脳の中のセロトニン量が、そんな危険なことをしてはいけないと抑制してしまうというわけだ。
極限のプロスポーツの世界では、ここだというぎりぎりの状況で、さらにリスクの高いことをやれるかどうかだろう。
 
ということで、いまのままでは、錦織がグランドスラムで優勝することはかなり難しいということになる。

 作家・医学博士 米山公啓 執筆者紹介

 作家・医学博士 米山公啓

1952年山梨県生まれ。作家・医学博士。専門は神経内科。1998年に聖マリアンナ医科大学内科助教授を退職。現在は週4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けるかわたら、実用書や医学ミステリーなどの執筆から、講演、テレビ・ラジオ出演など、幅広い活動を行っている。著作は280冊を超える。主な著作には「もの忘れを90%防ぐ法」(三笠書房)「脳が若返る30の方法」(中経出版)「健康という病」(集英社新書)など。趣味は客船で世界中の海をクルーズすること。

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