長生きと保険

2016年06月27日

以前、私が入院して開業医の仕事が止まったとき、所得補償保険が使えて、助かったことがあった。いつもは毎年支払うばかりで、と思っていたが、補償が受けられるときにはありがたいと思うものだ。
保険というのは何かあったとき、ようやくそのありがたみがわかるが、普段は掛け金がもったいないと思ってしまう。
 
生命保険は17世紀のイギリスで、葬儀の資金をみんなで出し合ったのが始まりと言われている。
「ハレー彗星」で有名なエドモンド・ハリーが「生命表」を考案して、人間の平均寿命を考慮することができるようになって、18世紀のイギリスで年齢を考慮した保険制度ができ、これが今の生命保険の本当の元のようだ。
 
生命保険の場合、年金型のようなものでは、長生きをすれば掛け金を支払った側は得することになる。むろん平均寿命を超えていかないとだめなのかもしれないが、それを考えると、医者は保険会社の敵になるのかもしれない。
国を挙げて、特定健診をして、病気の早期発見を心がけている。ところが、特定健診を受けることで、長生きができるという信頼度の高い疫学データはない。
 
特定健診の狙いは、医療費削減であるが、短期的にはそうかもしれないが、長期的視点ではむしろ医療費は上がっていくと考えるのが医療経済学の常識である。
病気が減れば健康保険を使わないので、財政上は改善すると考えがちである。しかし、実際には長生きすることで年金支払いは長くなるので、国として社会保障費として考えるなら結局支払いは多くなると言われている。
結論から言えば、医療費は年々上がっていくことを抑制はできない。
 
最近では治癒率99%などという薬も出現しているが、その薬代だけで数百万円かかってしまう。
つまり医学が進歩して確実に効く薬は非常に高額になってきているので、決して医療費が下がるとは思えない。
まあ、医療費が上がっても健康で長生きできるなら、それは結構なことではないだろうか。医療費を使いながら、寿命が延びないとか、健康でいられる期間が短いというのであればそれこそが問題になる。
 
日本の女性の平均寿命は世界一であり、それでも海外の馬鹿高い医療費を考えれば、よくぞこの低い医療費で日本は健康作りに成功していると考えるほうがいいのではないだろうか。 
そうなってくると日本では保険会社が外国より儲からないということになるのであろうか。
 
健康で長生きの秘訣は、高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療である。
これらをしっかり治療することで、動脈硬化の進行を遅らせることができる。
がんのリスクとしては喫煙が最大のリスクであり、喫煙者は禁煙が基本中の基本である。酒は飲める人が適量を飲む場合に、もっとも病気を減らすことができる。
これらが実際に実行されれば、さらに平均寿命は延びていくはずだ。
安易な食べ物による健康法などは統計的な信頼度から言えば、前述したこととは全く比較にもならない。
理想を言えば、健康というだけでなく、労働可能年齢をさらに上げて70歳現役にしていけば、さらに健康であることに意味が出てくるだろう。

 作家・医学博士 米山公啓 執筆者紹介

 作家・医学博士 米山公啓

1952年山梨県生まれ。作家・医学博士。専門は神経内科。1998年に聖マリアンナ医科大学内科助教授を退職。現在は週4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けるかわたら、実用書や医学ミステリーなどの執筆から、講演、テレビ・ラジオ出演など、幅広い活動を行っている。著作は280冊を超える。主な著作には「もの忘れを90%防ぐ法」(三笠書房)「脳が若返る30の方法」(中経出版)「健康という病」(集英社新書)など。趣味は客船で世界中の海をクルーズすること。

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